最高裁判所第三小法廷 昭和34年(あ)954号 判決 1963年7月09日
主文
本件上告を棄却する。
理由
検察官検事長岸本義広の上告趣意は、事実誤認ないし単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても、所論の点について原判決に同四一一条一号または三号を適用すべき違法があるものとは認められない。すなわち、差戻前の上告審判決に破棄理由の一として指摘された本件の被害金品の処分方法及びその所在については、原審において審理が尽されたにもかかわらず、これを明確にする新たな証拠を発見するに至らなかったことが認められ、同じく破棄理由の二として指摘された被告人近藤糸平が年令、経歴の著しく相違する近藤勝太郎と第一審判決判示のような動機のもとに、本件の如き強盗殺人の犯行をたやすく共謀するであろうかという疑問は、原審の審理によっても、なお解消したものとは認められず、同じく破棄理由の三として指摘された本件犯行に使用された紐類の出所及びその結び方の特徴と犯人との関係については、原審の審理によって、紐類の出所と結び方の特徴が概ね解明されるに至ったが、なおこれをもって本件と被告人等との結びつきを決定する資料とするには足らない。一方、原審の審理過程に現われた新たな証拠である鑑定人内田常司の足跡照合鑑定、被害者の死体発見の端緒に関する証拠、被害者殺害の時刻に関する状況証拠、近藤勝太郎並びに被告人小島敏雄の浜松刑務支所入所当初の言動をめぐる情況証拠及び被告人近藤糸平の被害者一家の行方捜索当時の言動をめぐる情況証拠も、差戻前の上告審判決が差戻前の第二審判決にかけた重大な事実誤認の疑いを解消し得る程の証拠価値を有するものとは認め難い。従って、原判決が、差戻前の第二審判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑いがあるとした差戻前の上告審判決の判断の趣旨に従い、被告人小島敏雄、同近藤糸平に対する強盗殺人、死体遺棄、被告人吉野信尾に対する賍物故買に関する第一審判決の事実認定には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認の違法があるものと断じて第一審判決を破棄し、右の点について、犯罪の証明がないものとして被告人等に無罪の言渡をしたことは、正当であって、当裁判所もこれを是認するものである。
よって同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)(裁判官 垂水克己は、海外主張)